今でも通用する高精度ティルティングレベル”名機N3”はこんな器械だ

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N3

N3です。名機です。
現在のライカジオシステムズ(ライカ)の測量機のブランドがまだ「ウィルド(WILD)」だった頃、民生用世界最高レベルの精度を誇ったティルティングレベルです。

※レベル:Level
ティルティング:tilting(以前はチルチン(グ)とも読まれていた)

以前紹介したセオドライトのT3000と並び称される名機ですが、こちらの方はずっと汎用性の高い、エクセントリックではない名機と言えます。
一番大きな違いは、N3が測量機として国土地理院に登録されていて(一級レベル登録)公共測量(一級水準測量)に使用できるというところでしょう。
(一級レベル:登録番号1 登録年月日1975/1/10)

 

精度を表す1km往復標準偏差が±0.2mm

どういうことかというと、ある点の高さを0として、1km離れた点の高さを求める為に水準測量を行います。(水準測量がわからない人は調べてね)
で、1km離れた点と最初の点の高さの差が求められます。
続いて今度は逆に水準測量をしながら戻ります。最終的に元の点まで戻ったときに高さが0に なっていれば誤差無しなんですが、N3ではそれが±0.2mmに収まるという話です。
一級水準測量ではレベルと標尺の間隔が30m以内という規定があるので、1km先まで行こうとするとレベルの据付が最低で17回、データを読み取る回数が34回、往復なので倍にして34回と68 回。
これだけの作業を行って0.2mm以内に収まるって・・・化けもんですね~

ちなみにこのN3の望遠鏡もT3000と同じくパンフォーカル式になっているので、近いところも遠いところも楽に視準出来ます。
パンフォーカルではない望遠鏡のレベルではどうしてるかって?
通常は倍率の大きいものを屋外用、大きくないものを屋内または近距離用として使い分けているそうです。

もうひとつ。
今現場で使用されているレベルはほぼ”オートレベル”ですが、N3は水平を手動で合わせるティルティングレベルです。専用ののぞき窓から1/4だけ見えてる2つの気泡管の高さを合わせれば望遠鏡が水平になっているわけなんですが、感度がいいので結構難しいです。
セオドライトの棒状気泡管の両端を”厳密に”合わせるわけですね。
ここをちゃんと調整しておかないと、前記の「1km往復標準偏差が±0.2mm」は絶対出ません。

 

具体的な計測方法

①高さの基準または計測の出発点に標尺を立てます。
(厳密な測量では標尺はインバー鋼などで出来た3m一本ものの”一級水準標尺”を用います)
②標尺から到達点の方向で30m以内の場所に三脚を立ててレベルを据え付けます。
(厳密な測量では木製の直脚(水準測量用の伸縮しない木脚)を用います)
③レベルの望遠鏡を覗き、(望遠鏡内の)水平視準線と重なる位置の標尺の数値を読みます。
(標尺の目盛とずれている場合は、マイクロメーターを使用して厳密に合わせます)
④読み取った数値を記録し、標尺を反対側の等距離の辺りに据え付けます。
(厳密な測量では標尺台を用いて、標尺の向きを変えるときに高さが変わらないようにします)
⑤前々項③と同じように、移動した標尺の数値を読み取ります。
(前の点と後の点で1セットです。先に測る方の点を後視点、新点の方を前視点といいます)
⑥前々項④の注釈にある標尺台を利用して標尺の向きを変え、②から繰り返します。
(厳密な測量では直射日光による影響を避けるために、N3に日傘を掛けます)
⑦参考:暗くて標尺の数値が読みにくい時は照明を付けます。

 

N3は測量以外の精密計測でも活躍

T3000と同じような精密計測です。といっても角度や距離が測れるわけではないので、もっぱら高低差を計測することになります。
え?
測量と変わらん?
いや、測量で必要とされる精度とはまた違うので・・・

では実際に用いられた状況を紹介いたしましょう。

その①:精密機械工場の床

某コンピュータメーカーの工場の建設の際の話です。組み立て室(だったかな)の床が傾いているとまずいということで、N3の出番がありました。室内での計測なので、一級水準測量用の3mのインバー標尺は使用出来ません。
で、こういう時のために用意してある1m以下のインバー標尺(長さは数種類あります)とセットでの出荷となりました。
このような短いインバー標尺も”工業計測用”のツールとしてちゃんとメーカーの商品ラインアップに載っています。さすがに短すぎて国土地理院への測量用機材としての登録/認定はありませんが。
なお、先ほど挙げた「インバー製3mの一級水準標尺」はちゃんと検定を取っております。

その②:長大橋の主塔

本四連絡橋を造っていた時代のことです。橋の根元にある背の高い構造物、主塔。
大型の橋なので、主塔の高さは200~300m。これ一本ものでは作れないし運べないので、高さ10m位のブロックを作り、現場で20~30個固定しながら積み上げて作ります。
この積み上げ作業の許容範囲(傾きや位置)は1mm!
ブロックを20個として2cm。200m上で2cmは1/10000になります。
主塔(というか橋梁)の施工目標精度は1/5000なので、各部の施工精度は1/10000~1/15000でやっていると聞いていました。
ここまでの話ではN3の活躍する気配は全くありませんね。話はここからです。
1mmの精度で10m角のブロックを積み上げていくってのはとんでもないことですが、そのブロックが組み立て時点で1mm狂っていたら?
話になりませんね。
じゃいったいあのブロックはどれくらいの誤差範囲で作成されているのでしょうか。

答:1/100mm

びっくりです。T3000を用いた三次元計測での精度が20~30μmなのに、こっちは1/100mm=10μmだと!
どうしましょう。
橋梁用のブロックで一番精度を要求されるのは高さです。現場で修正のしようがないからですが、ブロックのこっちの端とあっちの端(または任意の場所)で高さの差1/100mm以内になる様に加工するためにその検査機械が要ります。
そこでN3です。N3は高さ方向に関してはマイクロメーターを使って1/100mmまで読めます。
工場でブロックを作ります。N3を使って1/100mm以下で水平であることがわかっている床にブロックを置きます。ブロックの上端の各点をN3で計測して製作精度内であることを確認します。そうでなかったら再度加工。

凄いですよね。
主に作成してたのは神戸にある重厚長大な会社だったのですが、もっと凄いのはそれ使って計測してた技術者。
「俺はN3で1/1000mm読んでた」
って豪語する人が居ました。アナログの計測機なので、”メモリの間”を読む(推読といいます) ことで1/1000mmまで読んだ(つまり精度はちょっと怪しい)ということなんだそうですが、これやってみたけどガッチャガッチャマンには見えるけど読めませんでした。
余談ですが、後継(?)となるデジタルレベルNA3003は最小表示がデジタル0.01mmなので推読が出来ないため、先ほどの技術者によると「ありゃあダメだ、使えん」だそうです。

オプション

N3にはT3000ほどのオプションはありません。周辺機材でインバー標尺(測量用と工業用)、標尺台、直脚、日傘(!)。
本体直付けのオプションは接眼レンズ周辺のものです。

交換用接眼レンズFOKシリーズ

望遠鏡の倍率を変えるための接眼レンズ。パンフォーカルでも合わせにくい近距離や長距 離の視準の場合に標準のものと付け替えて使用します。

ダイアゴナルアイピース

望遠鏡を覗いて視準する際に、障害物があったり足場がなかったりという特殊な状況下で 使用されます。本体のアイピース(接眼レンズ)と付け替えて横や上から視準することが出来ます。
ダイアゴナル(斜め)ではなく視準方向と直角の方向から覗き込むのにダイアゴナルアイピースとは?
→横や上だけではなく斜め方向からも視準出来るという意味だそうです。

レーザーアイピースDL2

本体アイピースとの交換で取り付ける事が出来ます。これを付けると視準先に赤いマーキングが出来るので、どこを視準しているかがすぐにわかります。

このN3、触り心地も最高です。

といっても変態的な意味で言っているのではなく、T3000等と同じく”可動部分を動かしたときの動きが非常にスムーズ”なんですね。
通常、可動部分のガタを無くそうとすると動きがシブくなります。軽く動かそうとするとガタが増えます。いい機械は工作精度がよい(例えば回転部分が真円に非常に近かったり、軸が円の中心にぴったり合っているなど)ので、その間のどこかに”スムーズに回ってガタがないところ”があるはずです。
電気的な補正などが無い時代の計測機は、どんなものでもそれ自体の製作精度がそのまま計測精度みたいなもんですから、どんどん精度を上げていったわけです。
限界も当然あるんですが、その結果がN3T3000などに表れていると思います。
これ以降の計測機は電気的な補正や計算によって精度を確保しているものが多く、このアナログ最後の時代の計測機(他にもありますが)を評価する人はたくさん居ます。
何でもちょっと古い目がいいんじゃないかと思う、ちょっと古い目のガッチャガッチャマンでした。

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