熱線式風速計の原理

 

さて、アネモマスターは熱線式風速計なので、熱線式風速計の原理をもうちょっと詳しく
見てみましょう。
(参考文献:日本カノマックス技術情報、小林理研ニュース、他)

まず、周囲の温度よりも高温の物体があるとします。
放っておけば、この物体から回りの空気へ熱が移動して物体の温度は下がります。
このとき、空気の流れ(風)があって物体にあたっていれば、熱の移動量が大きくなって物体の温度の下がり方が早くなります。
※風がない場合は物体から空気へ熱が移動すると周囲の空気の温度が上がります。
空気がその場にとどまっていれば(あるいは動きが少なければ)、熱の移動量は少なくなっていきます。

実際には地球上では空気の対流が起きるので、ゆっくりですが常に物体よりも温度の低い空気が入ってくることで熱が常に移動し続けることになります。
風が吹くと、常に温度の低い空気が多く当たり続けることになるので、熱の移動量が大きくなります。

→要するにおでんの芋が熱いときに、箸で持ったままにしておくとだんだん冷めてきますが、ふうふうと吹いた方が早く冷めるのと一緒です。

もし風の速さ(風速)と物体の温度の下がり方(熱の移動量)が比例していれば、下がった温度から風速を算出することが出来ます、
よね?
条件として物体と周囲の温度(差)がわかっていなければなりませんが。

→口をすぼめて吹くのと、大口を開けて吹くのとでは、吐く息の速さが違います。
芋の冷め方も違うでしょ?

実に都合が良いことに、20世紀の初め頃(100年以上前)にモントリオール大学のルイ・V・キングという人が

”失われる熱は風速の1/2乗(平方根~要するにルート√です)に比例する”

という近似式を発表してて、
熱線式風速計を製造している各メーカーはみ~んなこれを基本にしてます。
ガッチャガッチャマンは英語弱いので論文の中身はよくわかりませんが、
読んでみたい人は、

http://rsta.royalsocietypublishing.org/content/214/509-522/373

へどうぞ。

※キング:ルイ・V・キング(Louis Vessot King1886~1956カナダ)
キングの式の考案者。発表時点でモントリオール大の物理学助教授
※論文もroyalsocietypublishingにあるようです。

 

キングの式

さて、物体の温度が下がると風速がわかるようになりました。
例えば、計測を開始して10秒で1度下がりました。
このときに風速1mだったとしましょう。
次の10秒でもう1度下がったらそのときも風速1mでしょうか?

実はそうではないのです。

”失われる熱は風速の1/2乗(平方根)に比例する”

と書きましたが、比例には比例係数というものがあるんです。
普通の一次式での

y=ax+b

における”a”がそれにあたりますが、このキングさんの式では係数の中に

”物体と周囲の空気との温度差”

という項目があるのです。
今の例でいうと2回目の計測では物体と周囲の空気との温度差が1度減ってるので、風速は一度目(1m)よりも大きくないと1度下がりません。
3回目にはトータル2度下がってるので更に・・・・

→物体の温度と周囲の気温の差が10度あったとすると、
最初の風速が1mだとすると次の風速は1.21m、3回目は1.56m、5回目には4m、9回目(2度差から1度差にする)では風速25m!
10回目は何と風速100mって。

これらは簡易計算なので実際にはもっと大きな数値になります。
最後には物体の温度と周囲の空気の温度が等しくなってしまい、いくら風が当たっても温度が下がらなくなります。
これではまずいので、実際の計測機では熱線を一定温度になるように(温度計で監視しながら)加熱してます。
これを素子として使用することで物体と周囲の空気の温度差を保ち、連続計測を可能にしているわけです。

え、物体の温度変化がないのにどうやって測るかって?

物体の温度(高温)を維持するために加えられる電流量を計測すれば、これも失われる熱を補完する量なので風速に比例するのです。
これなら常に1度分の熱量(電力)が失われると風速1mって答が出ます。

以上が熱線式の簡単な説明で、風に当てるための熱線、熱線を加熱する電源と計測器、熱線の温度を計測する温度計、周囲の温度を計測する温度計、
以上があれば風速計を作れてしまうってことです。

 

各メーカーの創意工夫

実際にはそう簡単ではないので、各メーカーが色々工夫を凝らしてるようです。
例えば日本カノマックスでは計測時に気圧の変化があると計測結果に差が出るということで、気圧計測も同時に行って精度を上げる方法について特許取ってるみたいです。

熱線式風速計は可動部分が無いことと小型化が簡単なことから、微風速の場合や狭いとこ
ろの計測によく使われます。
さて、ここで質問です。
熱線式風速計が使えない・使ってはいけない状況があります。
どんなときでしょうか。

これまでの話では”物体と周辺の空気”という書き方をしていたのですが、正式には”周辺の気体”です。
ということは”可燃性気体”(例えばメタンやプロパン)である可能性もあるんですね。
メタンやプロパンのガス流を計測しようとして熱線式風速計のヒーターを近づけたらどうなるでしょう。

ドカン!

ということで、可燃性気体が存在する可能性のあるところでは熱線式風速計を使ってはいけません。
そのような環境向けにはベーン式(小さな風車がついています)風速計などがよく使われます。
レックスでは出荷の際に出荷前点検(ちゃんと動作するか、指示値は正確であるか、付属品は揃っているか、など)を行っています。
本来は使用直前にも動作確認をするべきなんですが、風速の場合は角度や距離などのように簡単に使用できる基準がなかなかないので、そのまま当社を信頼していただくしかありません。

 

どうしても嫌って?

仕方がないので、自動車を用意していただきます。
助手席の窓から風速計を出した状態で一定速度で走って下さい。
その時の時速÷3600で風速が計算できます。
例:時速36kmで風速10m/sec、時速40kmでは風速11.1m/secになります。

合いました?

車のメーターが正確であるとか、運転が一定速度で安定しているとか、手持ちの風速計が動かないとか、
色々難しい条件がありますが、理屈の上ではそこそこの値が出るはずです。

これでも嫌な場合はちゃんと風洞作って・・・・
そんなこと出来るんだったら風速計をレンタルする必要はないですね、
失礼しました。

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